5月

スマートフォンの功罪については、多くの書籍が出版されていますが、昨年秋に出版されベストセラーを続けている「スマホ脳(アンデシュ・ハンセン著 新潮新書)」は極めて興味深い本でありました。

他の動物と同じように人間の歴史も、環境に適応できるように進化を続けてきました。先史時代以来、人類は狩猟採集生活を通して環境に適応してきたのであります。それが数百年で大きく変貌し、その最先端にあるのがスマートフォンであるとの主旨には大いに賛同できるところです。スウェーデンの精神科医である著者は、心の不調で受診する人が若者世代で急速に増えていることに注目し、その一因が一気にデジタル化したライフスタイルにあるのではないかと主張しています。

現在大人は一日約四時間をスマホに費やしているのです。若い世代はさらに多くの時間となります。著者自身が自己分析したところ、一日三時間もスマホを見ていることに驚かれていましたが、これは他人事ではありません。校長室で執務している時間に、スマホの着信音に思わず手が伸び、また集中力が途切れるとスマホを見ている自分がいます。その蓄積された時間は、予想以上になっていることが容易に推測できるからです。

大学生五〇〇人の記憶力と集中力を調査すると、スマホを教室の外に置いた学生の方が、マナーモードにしてポケットにしまった学生よりも良い結果がでました。本校の取り組みは理にかなったものであると言えます。

さらに大学での講義において、パソコンを持参し講義内容を入力したグループと、手書きで講義に臨んだグループでは、手書きの方が講義の内容をよく理解できていた結果が残されています。

新型コロナウイルス感染症の拡大が後押しとなり、多様な学びが注目されていますが、科学的、医学的見地からの研究が必要とされるのではないでしょうか。スティーブ・ジョブズがわが子にipadを持たせなかったのは、決して偶然とは思えないのであります。