3月

今年も、蛍雪の功成った三年生を送り出す三月となりました。新卒業生の保護者の方々には、心からの祝意とともに、三年間にわたる本校教育への御協力を厚く感謝申し上げます。

先日、群馬大学広域首都圏防災センター長で、群馬大学大学院教授の片田敏孝先生の講演を聴く機会がありました。片田先生は八年間にわたり釜石市の小中学校で防災教育を続けてきた先生です。東日本大震災では学校管理下にあった釜石市の小学生一,九二七人、中学生九九九人の全員が、津波によって命を奪われることなく無事に避難して、「奇跡の釜石」と大きく報道されたのでした。片田先生が子どもたちや地域の人々に訴えてきたことは、「大いなる自然の営みに畏敬の念を持ち、行政に委ねることなく、自らの命を守ることに主体的たれ」でありました。これは単に防災教育に留まることなく、教育全般についても意識すべきことなのではないかと、私は強く感じます。地震や津波はとても怖いということを教える脅しの防災教育では、危機意識は長続きしませんし、主体的な姿勢がないまま知識だけを与えることは、想定にとらわれて命を守ることができないと先生はお話し下さり、取り組む「姿勢」を身につける必要性を強調されていました。私は「姿勢」を大切にすることに、これからの教育の在り方を教えていただいたと思うのであります。避難三原則は具体的に「想定にとらわれるな」「最善を尽くせ」「率先避難者たれ」でありますが、ハザードマップに示された避難所から、さらに避難先を二か所も臨機応変に変えたことにより、子どもたちや地域の方々は命を守ることができたのです。避難所に指定されていた場所は十数メートルの津波に襲われ、到底生存することはできなかったはずです。想定にとらわれることなく、最善を尽くす姿勢が命を守ったのだと思います。

どのような状況であっても、自らの可能性を想定することだけに留まらず最善を尽くす人材こそが、これからの社会に求められていると感じた次第であります。

新卒業生の巣立ち行く時を迎えて、感慨も無量でありますが、ひたすらその人生に幸多かれと心より祈ってやまないのであります。