10月

第2学期始業式の私の話は、松尾芭蕉と仏頂和尚との会話から始めました。和尚が芭蕉に「人生とは何だ」と問うと、芭蕉は「かわずとびこむ水の音」と即答したそうであります。芭蕉はこれに「古池や」をつけて俳句にしたわけですが、この俳句で「人生ふたたび得られず。最も過ぎやすし」と鮮明に表現し、日本人の感性の象徴のような俳句になりました。平均寿命が伸びたとは言え、人生は百年に満たないのであります。永遠から見ると、私たちの人生などは、まさに「かわずとびこむ水の音」のように一瞬の出来事なのであります。一瞬だからこそ、その一瞬に幸せを見出す気づきや、そこから生まれる感謝、そしてすべての事に全力を尽くすことが大事だと思うのです。「全力を尽くすこと、感謝すること、気づくこと」の3つを常に意識して行動するよう話を締めくくった次第です。
さて、本校では毎年10月を訓育重点月間として、身だしなみや生活態度、物事に取り組む姿勢をさらにバージョンアップする1ヶ月としています。これは単なる生徒指導強化月間のような位置づけではないことをご理解いただきたいと思います。
特に今年度は指導項目の柱の1つに「常に感謝の気持ちをもって、校外でも気配りのある行動・あいさつを心掛ける」を設けてあります。権利ばかりを主張し、最低限の礼儀を守ろうとしない風潮が、社会全体を窮屈にしている印象があります。本校の卒業生は、社会に貢献することを通して、全員が幸せになって欲しいと願っています。未来を担う生徒たちに、日本人の中に流れ続けてきた感謝や謙譲の心を実践させることは、大切な教育なのであります。
9月の最終土曜日は台風の通過に伴い、風雨の強い中での登校となりました。いつものように外にいた私に、「風雨の中、ありがとうございます」と声をかけてくれた生徒がいました。週末になると1週間の疲れがたまってくるものですが、一瞬にして疲れが吹き飛んだ思いがしました。生徒の温かい言葉は私のとっては勇気の原動力であり、同時にこれからの社会を美しく変えていく原動力なのだと思います。