11月

三ヶ月前に出版された「医者にウツは治せない」という本が売れているようです。この本の著者である織田淳太郎氏は,私の大学時代からの親友であります。スポーツライターとして活躍していた彼が,自らのうつ病による入院の経験や,様々な調査・研究をまとめたものが今回の本なのであります。当然ながら賛否両論の反響があり,病院関係者からは反論も多数あるようです。織田淳太郎氏をかばうわけではありませんが,本編ではうつ病は医者には治せないという記述はどこにもありません。しかしながら,医療技術の進歩がめざましく,どのような病気でも薬剤で根治できると錯覚しがちな時代に警鐘を鳴らしている本であるとは言えるでしょう。

数々の事例を読み進めていくと,人間としての自然な生き方,取り組み方が精神的疾患治療のポイントになっていることを感じます。北海道三笠市にある市立三笠総合病院精神神経科では,うつ病やアルコール依存症の治療にソフトボール療法を取り入れています。薬の量を減らす一方で,患者主体のソフトボールチームを編成し,これまでに約360試合をこなし(平成17年6月現在),症状が大きく改善された事例が多数紹介されています。コミュニケーションの円滑化が図られる場となり,自然に感情を表現できるようになり,組織に帰属しているという意識が高まったことが主な要因のようです。同病院精神神経科医長の宮下均先生は次のように述べています。「坑うつ剤というのは,純然たるうつ病には効くというのが僕の考えなのです。純然たるうつという意味は,これといったストレス要因がないのに脳内物質のアンバランスなどが引き金となってうつになるケースです。自分を取り巻く環境の不適応などがストレスとなって,うつ症状になっている人は,坑うつ薬だけではなかなかよくならないのです。」

今の高校生は精神的に弱くなったと指摘されます。学校教育で意識すべき事柄が,ソフトボール療法の効果の要因であるコミュニケーション能力,感情表現,組織への帰属意識などと密接に関連していることを実感した次第です。