11月

日本経済は依然厳しい状況が続いています。書店のビジネス書売り場には、以前にも増して企業経営に関する本が多く並べられています。いくつかの本を読み進めていくと、共通点を発見することができます。それは、自社の利益だけを考えるのではなく、もっと広い視点が必要であるということです。確かに現存する大企業の創業者の多くは、利己主義で会社を興し繁栄させたわけではないようです。
江崎グリコの創業者である江崎利一は明治15年に生まれました。父親が経営していた江崎薬店は莫大な赤字を抱え、利一は中学校への進学を断念し、漢方薬の行商に励み、中学講義録で独学を続けました。登記代書業や朝鮮人参、葡萄酒の販売などの仕事に励んでいた時に、大きな転機が訪れました。船着き場で漁師たちがカキをゆで上げている光景を見ていた時、体にいいグリコーゲンがカキには多く含まれていることを思い出したのです。煮汁を調べるとグリコーゲンの他にカルシウムや銅なども含まれていることがわかりました。グリコーゲンの研究を進めている最中、長男がチフスに罹患し、医者から見放されてしまいましたが、利一は長男にグリコーゲンを与え続けることによって、一命をとりとめ回復させたのです。「長男を救ってくれたグリコーゲンを、広く世の中の人々に活用してもらうことが恩返しになる」という決意が、グリコーゲン入りキャラメルという形になり「グリコ」の誕生につながりました。
江崎利一誕生の1年後に生まれた中島薫一郎は、水産講習所(現東京水産大学)卒業後、農商務省の海外実業訓練生としてイギリス、さらにアメリカへと渡りました。あるパーティーでマヨネーズを食した彼は「いつか必ず、これを日本中に普及させて日本人の体位向上に役立てたい」という願望を抱きました。それから10年の歳月が流れ、ついにマヨネーズの製造に成功し、「キューピーマヨネーズ」が誕生したのでした。
「世のため、人のため」という創業者の思いが、今のグリコやキューピーの繁栄を支えていることを忘れてはならないと思います。